「ジョーカー」ネタバレあり!

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    「ジョーカー」見てきました。

     

     

    ホアキン・フェニックスすごい迫力ですね。

    「タクシードライバー」へのオマージュと思われるシーンの鏡に映る自分に向かっての問いかけなど鳥肌ものです。重要な役どころにロバート・デ・ニーロを配したキャスティングも憎いですね。

     

    悪人を主人公にした映画というのは少ないながらもあります。しかし映画の冒頭では悪人ではなかったのに、その主人公が悪人になっていく過程を描いた映画というのはほとんどありません(なぜ悪人になったのかをフラッシュバックで簡単に描く場合は別として)。なぜなら人が悪に染まっていく過程を見るというのは気持ちのいいものではありませんし、物語のテーマ性を提示するのが困難だからです。例外的にそういう映画が成り立つのは本作「ジョーカー」のようにすでに魅力的な悪役として確固たる地位を築いているキャラクターの過去を描いた外伝的な映画を製作した場合です。

     

    そうなると、ジョーカーと比較できる悪役はただ1人。そうです、ダース・ヴェイダーです。ジョーカーが映画史に残るA級悪役なら、ダース・ヴェイダーはおそらく映画史上最高のS級悪役です。映画文化におけるアイコンとしての地位はダース・ヴェイダーのほうがはるかに上でしょう。彼がアナキン・スカイウォーカーからダース・ヴェイダーになるまでの過程はたっぷり3本もの映画を通して描かれます。ジョーカーと比較するには十分すぎるほどにたっぷりと描かれてきた悪役です。

     

     

    さて、ジョーカーへと変貌したアーサーとダース・ヴェイダーへと転落したアナキンを比較してみて気づいたのですが、この2人にはほとんど共通点がありません。

     

    【家族】

    アナキン:優しい母親、父親同然のクワイ・ガン・ジン、兄同然のオビワン・ケノービ、何なら奥さんはナブー元女王にして共和国元老院議員で、容姿はナタリー・ポートマン

    アーサー:DV母親、恋人は妄想の中のみ

     

    【能力】

    アナキン:イケメン、ジェダイの騎士、戦闘能力ならおそらく銀河で一番

    アーサー:母親の虐待の傷跡の残る体、まともな食事にありつけずあばら骨が浮き上がっている、急に笑い出してしまう精神疾患持ち、社会からつまはじきにされた落伍者

     

    【社会的地位】

    アナキン:ジェダイの騎士のマスター候補、銀河の中心コルサントで特権階級

    アーサー:しがないピエロの仕事、しかもクビになる、精神疾患を持つ人へのケアも市の予算を削られ、社会から見捨てられる

     

    はっきり言わせてもらいます。アナキンは甘ったれです。

    この境遇でダークサイドに堕ちるなど言語道断です。ジョーカーの身に起こるあまりに不幸な出来事と周りに誰も彼を助けてくれる人がいない境遇を思えば、アナキンにはダークサイドに堕ちる資格などありません。なかなかマスターにしてくれないとか、それくらいの挫折はちゃんと乗り越えて、銀河の平和に尽くしてほしかったです。

     

    ということで社会からつまはじきにされた何の取り柄もない男が悪のカリスマへと生まれ変わっていく過程を重厚に描いた「ジョーカー」は間違いなく人間ドラマの傑作です。いい意味でホアキン・フェニックスの演技だけを鑑賞する映画という作られ方は、最近の映画にはないですね。こういう俳優はマーロン・ブランドとかデ・ニーロとかダニエル・デイ=ルイスとかの系譜ですかね。ぜひご鑑賞ください。


    「最後のジェダイ」見てきました! ※ネタバレ満載

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      ※このブログは「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」のネタバレ満載です。

       

       「スター・ウォーズ/最後のジェダイ」を見てきました!小学生の時に「帝国の逆襲」を映画館で見て、金曜ロードショーで「新たなる希望」「ジェダイの帰還」を見て以来、「スター・ウォーズ」は常に自分の人生と並走してきました。よく音楽を聴くと、それをよく聴いていた時代を思い出すと言われますが、私にとっては「スター・ウォーズ」を見ると、自分の人生の特定の時期を思い出します。「ファントム・メナス」は大学生の頃、「クローンの攻撃」は日本語教師だった頃、「シスの復讐」はGABAマンツーマン英会話に勤めてた頃を思い出します。そして「フォースの覚醒」以降のシリーズは札幌に来てからのことを思い出す映画になるのでしょう。

      最後のジェダイ

       

       「最後のジェダイ」には大満足です。冒頭の戦闘シーンは「スター・ウォーズ」が生み出した宇宙での戦闘はこう描かれるべきという形式を昇華させていましたし、R2D2が昔のレイアの映像を年老いたルークに見せるシーンは涙を流しました。そして、ルークが最後の力を振り絞って、反乱軍を守り、カイロ・レンと対峙した姿には鳥肌が立ちました。「スター・ウォーズ」は変わらず最高の映画ですし、私はこの先死ぬまでずっと「スター・ウォーズ」を見るのだろうと改めて感じ入りました。

       

       ただ本作に関しては2つ不満があります。「フォースの覚醒」を見た時はひとつも不満を抱きませんでしたが、今回は鑑賞直後の興奮が少し落ち着いた後に、「こうするべきではなかったか?」という思いが頭をもたげてきました。

       

      1.「スター・ウォーズ」はスカイウォーカー家の物語であってほしい

       アナキン、ルーク、レイア、ベン(カイロ・レン)まで、これまでの「スター・ウォーズ」の主役たちはいずれもスカイウォーカー家の人間でした(配偶者まで含めれば、ハン・ソロもパドメも)。しかし、レイはスカイウォーカー家とは何の関係もない人物であることが本作で分かりました(どんでん返しがある可能性もゼロではありませんが)。これを「スター・ウォーズ」の世界、ジェダイの可能性の広がりと見るか、物語の逸脱と見るかですが、私はレイがスカイウォーカー家の人間ではないことが分かったとたんに、ベン(カイロ・レン)を暗黒面から救い出すというレイの動機に説得力がなくなったように感じました。本作のレイとベンはフォースの力でずっとやり取りをしているのですが、レイがベンを救いたいと思うようになった動機としては、特にレイが父親として見ていたハン・ソロをベンが殺した後では、とってつけたような描写に感じてしまいます。両親に見捨てられた(とベンは感じている)という共通点はあるものの、ついこの間まで赤の他人で、レイにとっては明らかに敵であるベンをなぜそこまで救いたいのか?「フォースの覚醒」の公開後、“ルークとレイは親子ではないか”という議論がずっと続いていましたが、私は“ベンとレイはハン・ソロとレイアの子供であり、双子か兄妹であってほしい”と思っていました。それならば、レイが暗黒面に落ちた兄のベンを救いたいという動機も納得できますし、父であるハン・ソロを殺した兄を赦せるのかという葛藤も描けます。そして、その葛藤をレイアの母性が包み込むといった展開は泣けると思うのですが、脚本家陣はやはりネット上の予測・考察を裏切りたいと思ったのでしょうか(「ハリー・ポッター」のJ・K・ローリングは単にネット上の予想を裏切るために、ロンとハーマイオニーを結婚させたのは失敗だったと語っています)。双子のベンとレイが産まれた時にルークとレイアが話し合って(ソロは事情があって立ち会ってなかったことにして)、来たるべき暗黒面の復活に備えて、ベンにはジェダイの訓練を施し、レイは辺境の惑星に隠して窮余の事態に備えたという設定は、ルークとレイアが産まれた時のオビ=ワンとオーガナ将軍の対応をなぞる形になり、面白いと思うのですけどね。

      ルークとレイア

       

      2.「スター・ウォーズ」にはアウトローが必要だ

       ハン・ソロは「スター・ウォーズ」のみならず、映画史上最もカッコいいアウトローだと思います。旧三部作を何度も見返したくなるのは、8割がたハン・ソロが見たいからです。そのソロは「フォースの覚醒」で死んでしまいました。そこで本作のアウトロー枠として脚本家陣が創作したのが、ベニチオ・デル・トロが演じたDJということになります。ところがこのDJの出番が少なすぎる。せっかくベニチオ・デル・トロがいいキャラクターを作り上げたのに見せ場がほとんどありません。私にはローラ・ダーンが演じた暫定の反乱軍リーダーになった紫髪の女性とポーの叛乱のエピソードは蛇足だったように思えます。あそこはざっくりなしにして、カジノの惑星の話に時間を割くべきだったと思うんですよね。本作はキャラクターが全てシリアスで、珍道中的な遊びの場面が皆無です。「フォースの覚醒」では名もないストームトルーパーからヒーローへと変身したフィンも、本作では最初から反乱軍のヒーローであまり遊べないキャラになってしまいましたし、ポーはヒーローキャラではありますが、アウトローではありません。レイアがこん睡状態の間にポーの提案した作戦が承認されて、ポー、フィン、ローズの3人でカジノの惑星に向かい、この3人の冒険がシリアスパートのルークとレイの修行、カイロ・レンのシーンと対照的に描かれればよかったと思います。クルーザーから3人を乗せた船が出たことにファーストオーダーも気づき、追跡を始める。ポーの操縦テクニックで間一髪追っ手を撒いた一行がカジノの惑星に到着する。しかし、当然ファーストオーダーもカジノの惑星に乗り込んできて、ここからは「帝国の逆襲」のベスピンでの戦いのような感じになれば、ポーもフィンもローズも見せ場が作れるし、そこに何でも報酬を要求するベニチオ・デル・トロ演じるDJが絡めば退屈しません。「新たなる希望」でルーク、ハン・ソロ、レイアがゴミ捨て場に閉じ込められたシーンのような、銀河を救うはずのヒーローたちが何となく笑える騒動に巻き込まれるような名シーンが生まれた可能性もあります。私はスター・デストロイヤーに乗り込んだフィンとローズをDJが裏切る場面はそのままでいいと思うのですが、その後DJが2人を売ったことを後悔したりしたわけでもなく、あくまで成り行きでフィンとローズと一緒に脱出し、その結果ファーストオーダーから追われる身となり、嫌々ながらも反乱軍と行動を共にするようになると、ちょうど旧三部作のハン・ソロのような存在になれてアクセントが加わったんじゃないかなと思うのです。

      ゴミ捨て場

       

       ということで今さら遅いですが、「最後のジェダイ」の不満点2つでした。次の第9作が今から本当に楽しみです。


      夏休み

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         皆さん、「夏休み」はいかがお過ごしですか?

         

         大人にとっての夏休みは、昨日あたりから来週前半までを指すのでしょうか?昨日が夏休み初日という方も多かったことかと思います。

         

         しかし、私の夏休みは726日から始まり、821日まで続きます。25日間です。羨ましいですか?実はそうでもないです。フリーランスの翻訳者は、まとまった休みというのは取りにくいものです。たとえ「この1週間は夏休みにするぞ!」と心の中で叫んだとしても、たとえ旅行に行く予定を立てたとしても、仕事の依頼があれば引き受けてしまい、1週間の夏休みは延期にしたり、旅行の前後で強行軍で終わらせるか、仕事を旅先まで持っていってしまったりするものです。1日に8時間仕事をするなら、その8時間をどこで取ってもいいというのは、一般的な会社勤めの方から比べれば恵まれていると言えますが、仕事の依頼がある限り、それを幸せなことだと思い(あるいはなくなることを不安に思い)、完全なオフはないというのもまたフリーランスの人間の宿命です。

         

         話を私の夏休みに戻すと、正確には私の夏休みではなく、小学生の長男の夏休みが私にとっての夏休みになります。そしてこの25日間、私は長男のミニバスの練習や週末の大会に付き合い、毎日彼の昼食を心配しなければならず、さらには宿題、読書感想文、自由研究(をやらせること)に追われ、さらには夏休みの思い出作りのために、トマム、札幌ドーム、ポケモン映画、小樽水族館、プールと走り回るわけです。当然、仕事の時間は削られ、「夏休み」は休みなどではなく、いつもよりも仕事がキツい時期になってしまいます。

         

         トマムでは悪天候のため雲海が見られないという不幸にもめげず、子供たちとともに十勝川に飛び込み、

         

        ラフティング

         

         ミニバスの大会の審判を務めるべく、審判資格を取ってきました。

         

        審判

         

         

         そして夜ごとに近所の白い恋人パークにあるポケストップに近づき、翌朝、子供たちがポケモンを捕まえられるよう、モンスターボールを補充し、

         

        ポケモン

         

         仕事をやればいいのに、書店で本を買ってきては、つまみ食いのような読み方をしています。

         

        夏休み本

         

         

        左から

        「ハリウッド検視ファイル」:米国法医学会の頂点に立った日本人検視官(日系?)の話だそうです。現在、検視官もののドラマを翻訳してるので、興味があり購入しました。未読です。

         

        「帰ってきたヒトラー」:なぜか現代によみがえったヒトラーがナチス時代と同じことを主張すると、現代の大衆に熱狂的に迎え入れられるという風刺の利いた小説です。「○○首相はまるでヒトラーだ」などと政治家が繰り返すより、こういう小説を一読したほうが現代の日本および世界の危険性がすとんと腑に落ちます。

         

        「ダンクシュート」:今年のNBAドラフト選手のチェックです。リオオリンピックでチームUSAが見られるので、例年のオフよりはNBA禁断症状が出ずに済みそうです。

         

        「総合英語」:いわゆる受験英語の英文法の参考書を買ってみました。大人になってから英語の勉強をやり直そうとする人は、どうも大人なりの英語の勉強の仕方があると信じてやまないようで、「ドラマで学ぶ英語」とか「Newsweekで生きた時事英語を学ぼう」とかに引き寄せられていきます。しかし、大人になっても英語力を伸ばしたければ受験英語です。さっぽろ字幕翻訳スクールの授業でも、いろいろと話の引き出しを増やそうと手に取ってみました。

         

         来週は札幌ドームでの日ハム戦と大相撲札幌巡業で夏休みもフィニッシュです。奥さんは明日からライジング参戦です。大変だけど、やっぱり夏休みはいいですね。


        夏到来!

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          1週間以上、曇り空が続き、7月に入っても半袖が着られない日が続いておりましたが、やっと晴れました!


          佐々木果樹園 
           

          定山渓の佐々木果樹園です。

           

          天気の悪い6月にいちご狩りは終わってしまい、今日はさくらんぼ狩りです。


          さくらんぼ狩り 

           

          おみやげは、奥さんがジャムとチーズケーキにしてくれるそうです。

          さくらんぼ
           

           

          最後は釣り堀で釣ったニジマスの塩焼き。

          魚
           

           

          10時ごろに家を出て、3時ごろに帰ってきました。

          朝起きて、「今日は何しようか?」という感じで、果物狩りでも、小樽の寿司でも、スキー場でも、おおよその遊びにアクセスできるのは、本当に札幌に来てよかったなぁと思うところです。

           

          これから夏本番となってくれるといいですね。札幌に来て3年が経ちましたが、子供の頃の夏の長い夜の記憶がよみがえってきました。7月〜8月半ばくらいは、8時近くまで外が明るいんですよね。小学生の頃は、晩御飯を食べ終えた後に、7時くらいに再び近所の友達と集まって、夕涼みに出てきたお母さんたちが見守る中、8時半くらいまで缶蹴りとかをやっていた記憶があります。花火をやりたければ、9時過ぎくらいまで待たなくてはなりません。

           

          さらに緯度が高くなると、ほぼ白夜のような状態になり、ロンドンにいた頃は、夏は9時過ぎまで明るかった記憶があります。日本食レストランでバイトをしてたんですが、閉店時間が近くなり、表の看板をしまいにいってもまだ明るいんですよ。逆に冬は3時過ぎから暗くなります。北欧の照明器具が素敵なのもうなずけます。

           

          今年も北海道の夏、満喫しようと思います!


          日本人にとっての法律・憲法

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            日本人というか中国文化圏の東アジア人って、どうしても法律とか憲法というものがDNAレベルでは理解できないようですね。今日もそんなため息交じりの感想を持ってしまうような、政治家の発言がありました。

             

            神との契約(約束)を柱にしたキリスト教徒がその契約を俗世向けに焼き直した法律と、それを輸入し、もとからあるそれらしきものと折り合いをつけながらできあがった東アジア人の法律では、やはり決定的な違いがあります。

            それは、キリスト教徒が人間の上位に神(法律)を置くのに抵抗がない(むしろそれが自然である)のに対して、東アジアの仏教、儒教、自然信仰などはいずれも基本的に人間の上位に位置する存在を定義していません。ですから、キリスト教徒にとっては、法律は人間の上位に位置しますが、東アジアでは人間が法律の上位に位置します。これが決定的な違いです。

             

            以前、「ソプラノズ」というマフィアにも日常生活があるという視点で描かれ、大ヒットしたドラマにこんなエピソードがありました。

             

            警察が主人公のマフィアのボスの家の電話に盗聴器を仕掛けることになったのですが、捜査の根拠が弱いということで、裁判所から盗聴は1日1時間に限定という命令を受けます。

            マフィアのボスの家の向かいに作戦本部を設けた警察は、室内に1時間をカウントダウンしていく大きな電光掲示板を設置します(このへんはドラマですから視覚的に分かりやすくということですが)。ある日の盗聴で、捜査の核心に迫る会話が始まり、小躍りする捜査陣。しかし、盗聴の残り時間も1分ほどしかありません。「早く話せ〜!」と絶叫する捜査陣をよそに、あと10秒もあれば証拠となる会話を録音できるというところで、電光掲示板が時間切れを知らせ、捜査陣は「チクショー!」と叫びながら、盗聴をやめてしまいます。

             

            どうです?おかしいと思いません?

            そうです、東アジア的感覚でいえば、この捜査陣の行動は理解できません。犯罪者を捕まえる確実な証拠が目の前にあるのに、何でたかだか10秒くらいを気にしちゃうのと。犯罪者を捕まえることより優先されることなんてあるの?という感覚です。

            しかし、キリスト教徒にとっては、裁判所からの命令(つまり神の命令)は、犯罪者を捕まえるという俗世の人間活動より上位にあるわけです。

             

            次は日本の有名な裁きのお話です。多くの方がご存じだと思いますが、「大岡裁き」という話です。

             

            ある身寄りのない少年の母親だと主張する女性が2人現れ、話し合いでも決着がつかないため、大岡越前守に裁定が任されます。そこで大岡越前は、「少年の腕を片方ずつ両側から引っ張り合い、自分のほうに引き寄せたほうを母親と認めよう」と言って、2人の女性に少年の腕を引っ張らせます。

             

            本物の母親のほうは、引っ張られて「痛い!」と泣き叫ぶわが子の姿を見て、思わず手を離してしまいます。偽者の母親が少年を連れ帰ろうとすると(少年を引き取ればカネになるという動機があったかと思います)、大岡越前が「ちょっと待て」と制止します。「泣き叫ぶ少年の腕を思わず離したのは、本物の母親の愛情がなせる業、ゆえに本物の母親は手を離したほうである」と裁定を覆します。

             

            どうです?いい話でしょう?名裁定でしょう?

            これが東アジア人の法律に対する感覚なんです。つまり、情愛や情緒といった人間活動が法律より上位にあるんですね。

             

            この話をキリスト教徒にすると、全く異なる反応が返ってくるでしょう。

            「なぜ裁判官は自分が定めたルールを、こんな主観的な感覚で簡単に覆せるんだ?」

            「引き寄せたほうが本物というルールなら、たとえわが子が腕が痛いと叫んでも、自分の元で大切に育てたいという思いで、引っ張り続けるのが本物の母親だ」

            「こんなの控訴すれば、余裕で勝てるよね?」

            「何で日本人は、この話を美談だと思うわけ?」

            と、まあざっとこんな感じでしょう。

             

            よく日本は治安がいいというふうに言われますし、実際そのとおりだと思います。東日本大震災の時も、あれだけの危機的状況にありながら、整然と列を守って物資を受け取る人々の姿に海外から称賛の声が上がりました。

            しかし、あれは日本人が法律を尊重する民族だからではありません。あれは日本人が秩序を尊重する民族だからです。もっと言えば、自分の知ってる人、目の前にいる人に迷惑をかけてはいけないという発想がDNAレベルでしみついているからです。

            日本では、自転車泥棒や傘泥棒があとを絶ちませんが、誤解を恐れず言えば、これらの行為は社会の秩序を乱すようなものとは言えません。自転車・傘の持ち主は自分の知らない人ですから、窃盗という犯罪行為への一線も比較的簡単に超えてしまうのです。

            列に横入りすることは、道義的には問題がありますが、犯罪行為には当たらないと思います。しかし、窃盗は立派な犯罪です。それでも、日本人は列に横入りするような秩序を乱す行為は絶対にしなくても、知らない人の傘を盗むという法律を破る行為は、平気でやってしまうというわけです。

             

            何だか自虐的な話になってしまいましたが、そんな気分になってしまうニュースがなくなることを願います。


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