2月6日の日記

0

    2月6日(火)の日記

     

    昨夜、「マイ・インターン」を見た。ロバート・デ・ニーロ、アン・ハサウェイの映画だ。2015年の映画だが、こんなにいい映画を9年間も見ないでいたことにもったいなさを感じるとともに50歳の今見たのがよかった(あと10年後でもよかった)気もする。人は皆映画や漫画の登場人物のようになりたいものだ。私も15歳くらいのころはハン・ソロのようなカッコいいアウトローになりたかったし、「タッチ」の達也のようにちょっと本気出せばすぐに甲子園に行けて、南ちゃんのような高嶺の花が幼なじみという境遇に生まれたかった。

    そして50歳になった今「マイ・インターン」を見て、ロバート・デ・ニーロの演じたベンのように一回りも若い女性に頼りになる人生の先輩というふうに見られたいと思った。10年前ならまだ「プリティ・ウーマン」のリチャード・ギアになりたかったのだろうが、年齢とともになりたい自分のポジションが変わるものらしい。

     

    人生経験が豊富で、一緒にいると落ち着けるベンに対して、何でも見透かされてるような落ち着かない気分になり、アン・ハサウェイが演じるジュールズが彼を異動させようとするくだりがある。社内でも誰にでも好かれるベンをなぜ異動させたいのか聞かれたジュールズは、too observant(注意深すぎる)とメールで返信する。これに字幕が“目ざとすぎる”とつけられていた。これはいい字幕だ。異動させる理由なのだから若干ネガティブなニュアンスを含む言葉を選択しなければいけないのだが、「目ざとい」は絶妙なバランスを持った言葉だと思う。基本的には褒めているが、あまり踏み込んでこないでねという警告も少し感じられる。私はこれまで「目ざとい」という言葉を字幕で使った記憶はないが、ひとつ引き出しが増えた気がする。

     

    私が講師を務めているさっぽろ字幕翻訳スクールのホームページです。

    http://sapporo-jimaku.net/


    1月20日の日記

    0

      1月20日(土)の日記

       

      昨年末、ゴルフ仲間と20年以上ぶりに麻雀をやって以来、ABEMAでMリーグ観戦にハマり、暇さえあれば雀魂でオンライン麻雀ばかりやっているぐうたら生活に危機感を覚え、今日はネットフリックスで「終わらない週末」を見た。

       

      ジュリア・ロバーツ、イーサン・ホーク、「グリーンブック」のマハーシャラ・アリなどが出演しているちょっと不思議な映画だ。

       

      ここからはネタバレを含みます。

       

      本作はずばり陰謀論者が唱えているトンデモ陰謀をてんこ盛りにして、この映画を見た陰謀論者を赤面させることを目的としているのだと思う。

      アメリカ全土を襲うサイバー攻撃、飛行機の墜落、テスラの車が自動運転で次々に事故を起こす、動物の奇妙な行動、耳をつんざく音波爆弾のような武器の効果で歯が抜け落ちるなど、すべてが陰謀論の滑稽さを見せつけるために描かれる。

      国防関係の権力者が何か知っているようだったと話すG・Hや、この陰謀の裏には中国か北朝鮮がいると話すいかにも無教養な風体のショットガンを構えた男(ケヴィン・ベーコン)は、陰謀論者に自分たちがどれだけ滑稽に映る存在かを見せつけるようだ。

      陰謀論などなかった時代の象徴としての「フレンズ」がどうしても見たい娘のエピソードも秀逸だ。サブスクにある「フレンズ」はネットがダウンしているため見られないのだが、娘ちゃんは最後にDVDで「フレンズ」が見られてご満悦というオチをネットフリックスの映画がやるというところも皮肉がきいていていい。

      こういう寓話は大好きです。

       

      私が講師を務めているさっぽろ字幕翻訳スクールのホームページです。

      http://sapporo-jimaku.net/


      11月6日の日記

      0

        11月6日(月)の日記

         

        11月に入ってから配信が始まったネットフリックスのリミテッドシリーズ「すべての見えない光」全4話の字幕を担当させていただいた。

        すべての見えない光 - Netflix

         

        2015年にピュリッツァー賞を受賞したアンソニー・ドーアの「すべての見えない光」が原作ということで、ネットフリックスとしても今年一番力を入れたドラマらしい。俳優陣も若い主役2人はほぼ新人だが、マーク・ラファロやヒュー・ローリーが脇を固めており、ネットフリックスの本気度が伝わってくる。

         

        舞台はナチス占領下のフランス。そこに盲目の少女、所有者に死をもたらす不吉な宝石、ラジオ放送と物語を盛り上げる要素がこれでもかと詰まっている。欧米の人々にとって第二次世界大戦は、ドラマの舞台という意味では日本人にとっての織田信長の戦国時代か坂本龍馬の幕末かというくらいに人気のある時代だ。ナチスという分かりやすい敵がいるので、主人公の前に立ちはだかる苦難も容易に描ける。私も字幕翻訳者になってから、ナチスと第二次世界大戦をテーマにした映画、ドラマ、ノンフィクションは両手の指では数えきれないほど翻訳してきた。この時代の資料をそろえ、理解を深めておくことは翻訳者にとっては必須であると思う。

         

        原作小説は2人の主人公の心の内が丁寧に描かれていて、第二次世界大戦の騒乱はどちらかというと背景になっている。呪いの宝石の存在もミステリー要素というより、美しい文章を書くための装置として機能している印象だった。

        しかしドラマ化となると全く同じやり方は持ち込めない。まず映画やドラマは人物の心の中を直接表現できない。映像のある映画のほうが小説より表現手段として優れているように思われているが、実は人物の内的描写においては小説のほうがはるかに優れた表現手段だ。そこで映画やドラマにはアクションが必要になる。原作小説の少年は一応ナチスの兵士だが通信兵で、戦闘に参加する描写はほとんどない。だがドラマとなると、銃の一発でも撃ってもらわないと視聴者の心を動かせない。もう一人の主人公の盲目の少女など、原作ではもちろんアクションシーンはないが、ドラマとなるとナチスの将校を相手に信じられないような大立ち回りを演じなければならない。

        そういう意味では原作とはだいぶ趣が違うが、視聴者の心をつかむ感動的な場面はちゃんと用意されていて、そこは原作小説にはない設定などが盛り込まれている。

         

        私は昨今の「原作と設定が違う」という映画化に対する批判は、特に小説の映画化に関してはまったく見当違いだと思う。マンガからアニメは、表現手段がほとんど変わらないから、原作どおりの設定でも面白いものが作れるだろう。だが小説と映画では表現手段が全く異なる。小説は内的描写と美しい文章で知性に訴える表現手段だが、映画は映像、音楽、声など主に視覚と聴覚に訴える表現手段だ。だから両者では最適の表現手段が異なるのは必然だ。

         

        「すべての見えない光」のドラマ化に当たっては、脚色した人たちがそこをしっかり理解して、ドラマとして最適の表現手段を用いていると思う。アクションと繊細な描写のバランスがうまく取れた良質なドラマなので、ぜひご覧ください。

         

        私が講師を務めているさっぽろ字幕翻訳スクールのホームページです。

        http://sapporo-jimaku.net/


        10月24日の日記

        0

          10月24日(火)の日記

           

          昨日から始まった東京国際映画祭。毎年1本、字幕をつけさせていただいているが、今年は「野獣のゴスペル」というフィリピンの映画に字幕をつけた。

          【野獣のゴスペル】 | 第36回東京国際映画祭 (tiff-jp.net)

           

          映画祭の仕事は普段見る機会も翻訳する機会も少ない国の映画に触れられるので、毎年楽しみにしている。一般的な家の様子、街並み、レストランやお店、食事の習慣など米英の映画やドラマでは目にすることのないものが見られる。同時に貧困の問題や若者の抱える悩み、家族のあり方などは万国共通の普遍的なものなのだと感じることができる。

           

          字幕制作としては原語の英訳スクリプトから翻訳、英語字幕が横下にあるので日本語字幕は縦右11文字のみ、Bトラックなしなど普段とはかなりやり方が異なる。特に困るのは英語スクリプトの情報の少なさだ。原語の量に対して明らかにはしょってることが多いし、結構な大声のセリフに対して英訳がなかったりもする。基本的には英語字幕がついていない個所に日本語字幕はつけないというスタンスなので、かなり大胆にアウトにされるセリフも出てくる。ただそれも含めて映画を愛する人たちの集まる映画祭のツウな字幕という感じもするので、それほど気にならない。

           

          いつか東京国際映画祭に足を運んで自分が字幕をつけた映画をスクリーンで見てみたいのだが、なかなか重い腰を上げられない。コロナ禍も過ぎたし、来年あたり行こうかな。

           

          私が講師を務めているさっぽろ字幕翻訳スクールのホームページです。

          http://sapporo-jimaku.net/


          10月12日の日記

          0

            10月12日(木)の日記

             

            本日、配信が開始された作品の紹介。NETFLIX配信の「アッシャー家の崩壊」全8話のちょうど半分の4話分を翻訳した。

             

            エドガー・アラン・ポーの代表作の1つゴシックホラー短編の「アッシャー家の崩壊」が原作ということで、翻訳開始前に早速Kindleで購入して読んでみた。初めて読んだのだが、30ページほどの本当に短い短編。もちろん不気味な雰囲気が漂い楽しめたのだが、それほど目新しいアイデアでもないごく普通のホラー小説だった。それもそのはず、この手のゴシックホラー小説の元祖がエドガー・アラン・ポーであり、スティーヴン・キングもティム・バートンもポーの小説に影響を受けて、このジャンルを昇華させたのだ。SFにおけるジュール・ヴェルヌとかH・G・ウェルズのような存在なのだ。同時代に「アッシャー家の崩壊」を読んだ人たちは、斬新な設定とアイデアに衝撃を受けたことだろうと思う。今の世の中にあるあらゆるゴシックホラーの映画、小説は元をたどっていけばすべてエドガー・アラン・ポーにたどり着くという存在だ。

             

            わずか30ページの短編が全8話のドラマになるはずもなく、ネトフリ版「アッシャー家の崩壊」は、実はポーの複数の短編小説を「アッシャー家の崩壊」を軸に組み合わせて1つの物語にするというとんでもなく複雑な作業で組み立てられたドラマだ。こういう作業をする脚本家の才能というのは本当にうらやましい。私もできるなら、好きな小説家の短編を読み漁って、そこから発想を得た長大なドラマの脚本を書いてみたい。まあ、そんな才能はないのだけど。やるなら、フィリップ・K・ディックがいい。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか」を軸に、ディックのあらゆる短編からアイデアを持ってきて、1つのストーリーにする。ああ、楽しそうだ。

             

            ドラマには何とあのマーク・ハミルが出演している。「スター・ウォーズ」以外で彼が役者をしてるのを見るのは初めてだ。ルーク・スカイウォーカーの面影など微塵もない汚れ仕事を引き受ける弁護士を唸るような低音ボイスで演じてる。もう1人、メアリー・マクドネルも主要キャストで出演している。「ダンス・ウィズ・ウルブズ」で知られる息の長い女優さんだが、私にとっては何と言っても「バトルスター・ギャラクティカ」の女性大統領役だ。「ギャラクティカ」はワイズ・インフィニティ時代に仕事で特典映像を長く翻訳したのだが、クライアント様からサンプルDVDを全シーズン分いただいて、今も手元にある。だが今私の家にはDVDを見る手段がほぼない。さらに「ギャラクティカ」はどこのサブスクでも配信されていない。あの名作をサブスクで見る手段はないのだろうか。

             

            「アッシャー家の崩壊」は、非常によくできたゴシックホラードラマなので、ぜひ皆さんご覧ください。

             

            私が講師を務めているさっぽろ字幕翻訳スクールのホームページです。

            http://sapporo-jimaku.net/


            calendar
                 12
            3456789
            10111213141516
            17181920212223
            24252627282930
            31      
            << March 2024 >>
            selected entries
            categories
            archives
            recent comment
            • 札幌国際短編映画祭 子ども審査員
              Aro (09/20)
            • 札幌国際短編映画祭 子ども審査員
              Kai (09/19)
            • 映像翻訳フォーラム 行ってきました!
              アロー (03/28)
            • 映像翻訳フォーラム 行ってきました!
              Kai (03/25)
            • 映像翻訳フォーラム行ってきました!
              ARO (04/03)
            • 映像翻訳フォーラム行ってきました!
              imai (04/02)
            • 「ホビット 竜に奪われた王国」見ました!
              ARO (03/22)
            • 「ホビット 竜に奪われた王国」見ました!
              Kai (03/13)
            • 新年あけましておめでとうございます
              Aro (01/03)
            • 新年あけましておめでとうございます
              Kai (01/02)
            links
            profile
            search this site.
            others
            mobile
            qrcode
            powered
            無料ブログ作成サービス JUGEM